「嫌がらせ」や「いじめ」といった迷惑行為によって相手を不快な気持ちにさせるハラスメントにはさまざまな種類があります。その中でも近年問題視されているのが「顧客や取引先による従業員への不当な迷惑行為」であるカスタマーハラスメント(通称:カスハラ)です。
カスハラの被害が年々増加・悪質化している問題を受け、厚生労働省は2024年12月26日に企業に対して「カスタマーハラスメント対策を義務付ける方針」を固めました。
今回は深刻化するカスハラ被害の実態や事例、企業が求められる対策について徹底解説します。
まず、カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、どのような迷惑行為のことを指すのか解説します。
カスハラとは、顧客等から企業や従業員に対する理不尽なクレーム・言動(暴言、暴行等)に対する要求を実現するための手段・有様が「社会通念上不相当なもので、従業員の就業環境が害される迷惑行為」のことです。
厚生労働省の調査によると、カスハラがもっとも起こる場所は「通常就業している場所での顧客等への対応時」で60.7%、次いで「顧客等との電話やメール等での対応時」で38.1%であることが判明しました。電話での対応時は、顔や名前を明かす必要がないことや顧客と従業員のやり取りが不可視化であることからカスハラが起こりやすくなっています。
出典元:厚生労働省『令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書』
カスハラの例として、下記のような迷惑行為などがあげられます。
■従業員に対して暴力をふるう / 土下座を求める /物を投げつける
■「ブス」「アホ」「死ね」などの暴言を吐く
■ネットに書き込むなどと脅す
■大声で怒鳴りながらクレームを言う
■電話対応で1時間以上拘束する
■企業に担当者の解雇を求める
本来、サービスを受ける顧客等とサービスを提供する従業員は対等な関係です。しかし、『お客様は神様』というフレーズが意味をはき違えて広まったことや日本のホスピタリティ精神、競合他社とのサービス合戦により、世の中に「顧客等は従業員よりも優勢な立場である」という間違った偏見や思い込みが浸透していきました。
さらに、カスハラが増加した背景には消費者の権利意識が高まったことやSNSの普及、新型コロナウイルスによる社会的な不安やストレスが関係していることが考えられています。
【原因①:消費者の権利意識】
日本のホスピタリティ精神や競合他社とのサービス合戦により過剰なサービスが提供されるようになったことで、「~されて当然」といった過剰な期待をする消費者が増え、強い要求や不満を訴える顧客等が増加しています。
【原因②:SNSの普及】
匿名性が高く、簡単に発言・情報発信できるSNSが普及したことで、顧客等が企業や従業員を批判しやすくなりました。その結果、顧客等の発言力が強くなり、企業や従業員を名指しで批判したりサービスや製品の誹謗中傷を書き込んだりする投稿が増加・拡散されるようになりました。
【原因③:新型コロナウイルスによる社会的な不安やストレス】
新型コロナウイルスの流行により、閉塞感や経済的格差が広がったことで社会的な不安やストレスが増大しました。そして、一部の消費者は些細な出来事にも過剰反応するようになり、その不満やストレスを企業や従業員に向けるようになりました。
次に、カスハラに該当すると考えられる定義について解説します。
トラブル時の顧客等への対応方法や判断基準は企業・業界によって異なるため、カスハラを明確に定義することはできません。しかし、厚生労働省では企業への調査等を行い、カスハラと考えられる定義について公表しています。
出典元:厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
<顧客等の要求内容が妥当性に欠けている場合(例)>
・企業が提供する商品、サービスに瑕疵や過失が認められない場合
・要求内容が企業の提供する商品、サービスに関係していない場合
<要求を実現するための手段・態様が社会通念上不当な言動である場合(例)>
① 要求内容の妥当性に関わらず、不相当とされる可能性が高いもの
・ 身体的な攻撃(暴行、障害)
・ 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
・ 威圧的な言動
・ 土下座の要求
・ 継続的(繰り返される)、執拗(しつこい)な言動
・ 拘束的な行動(不退去、居座り、監視)
・ 差別的な言動
・ 性的な言動
・ 従業員個人への攻撃、要求
② 要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの
・ 商品交換の要求
・ 金銭補償の要求
・ 謝罪の要求(土下座を除く)
次に、カスハラとクレームの違いと現場での課題について解説します。
カスハラとクレームの違いは紙一重と勘違いされやすいですが、その行為に対する目的が全く異なります。正当なクレームは「商品やシステム等の品質改善」や「サービス向上」を目的としているため、クレームを受けることで企業の成長に繋げることができます。一方、カスハラは「過度な要求や不当な言いがかり・嫌がらせにより、自身の欲求を満たす」ことを目的にしており、顧客である立場を利用した単なる迷惑行為のことです。
上記に記載したように、カスハラとクレームでは根本的な目的が異なります。しかし、実際にトラブルが発生した際にカスハラとクレームどちらであるかを現場で判断しづらいといった「認識の違い」や企業で適切なカスハラ対策を講じていない「対策不足」などの原因により、問題の解決がされにくくなっています。
また、組織自体がカスハラの理解度が低いことで、カスハラの被害を報告するハードルが高くなっているケースもあります。
次に、電話によるカスハラの被害状況や、実際に発生した電話によるカスハラの被害事例について解説します。
システム開発を行っているトビラシステムズ株式会社の調査によると、電話によるカスハラが起こりやすい業種の一位は「その他サービス業(17.4%)」、二位は「医療、福祉(14.7%)」、三位は「卸売業者、小売業者(14.1%)」であることが判明しました。
また、電話によるカスハラ被害で多い言動の一位は「暴言(65.3%)」、二位は「長時間にわたる電話(55%)」、三位は「繰り返しにわたる電話(39.6%)」でした。
出典元:トビラシステムズ株式会社『電話によるカスタマーハラスメントに関する調査レポート 暴言や長時間の電話、被害時に「カスハラ対策導入されていなかった」が6割』
【暴言】
・顧客との電話のやりとりでどちらかの言い間違い・聞き間違いによって起きた業務ミスにより、過度な謝罪・値引きなどの要求と罵倒を受けた。
【長時間】
・4時間にわたるクレーム電話で叱責された。
・こちらに非はないにも関わらず、顧客より「嘘をつかれた。嘘つきな店員は辞めさせろ」などと長時間にわたり電話で叱責を受けた。
【繰り返し】
・毎朝毎夕1時間以上の電話をかけてこられ、自分勝手な要望やそれが通らない時に怒涛のクレームをつけてくる。
・なかなか電話を切らずに、繰り返し苦情を言って回答を求めようとする。
【威嚇・脅迫】
・嘘をついていないにも関わらず、「おまえらは嘘つきか!〇〇言ったやろ!」と罵られた。
【セクハラ】
・女性従業員にのみ性的な質問をしてくるが、途中で男性社員に変わった途端に電話が切れた。
【過剰な要求】
・サポートデスクの対応者が顧客より「開発チームと徹夜して明日までにバグを直せ」「200万円払え」といった過剰な要求を受けた。
最後に、義務化されるカスハラ対策に関して、今後、企業が講じるべき対策について解説します。
顧客等からカスハラを受けた従業員は『怒り・不安・不満・恐怖・仕事への意欲が減退する』など心身に影響を及ぼすだけでなく、『休職・退職する』など、その後の就業に影響を与えているケースも少なくありません。そのため、企業はカスハラ対策を講じ、大切な従業員を守る必要があります。
厚生労働省では、年々増加・深刻化するカスハラの問題に対し、2024年12月26日に開催された労働政策審議案の雇用環境・均等分科会にて「カスタマーハラスメント対策」を企業に義務付ける案を示し、了承されました。
下記のカスハラ対策を参考に、企業ごとにカスハラ対策を実施し、カスハラ被害を低減させましょう。
カスハラが発生した際に、現場で適正な判断・対応が行えるよう企業の基本方針を策定しておく必要があります。『企業内でのカスハラの定義・判断基準』を明確化し、対応時のマニュアルを作成しておく必要があります。マニュアルを作成する際に、カスハラの判断基準や事例、「謝罪方法・話の聞き方・事実確認の方法」といった対応方法や感情をコントロールするコミュニケーションスキルを向上させる方法などの項目を押さえておきましょう。
また、マニュアル作成後も事例が蓄積されるごとに改定し、再発防止に取り組みましょう。
カスハラ発生時に適切な初期対応ができているか・対応後の報告体制が整っているかは非常に重要です。初期対応の際に『なぜ・何に対して顧客等が不快に感じたのか』という事実を明確化させることで、クレームからカスハラに変わるリスクを低減させましょう。
また、カスハラ発生後、速やかに報告が行われるように『報告先(直属の上司や人事部門など)』『報告方法(書面や口頭など)』を明確化するなど、報告体制を構築しましょう。
カスハラが疑われた際のカスタマーサポートでの対応を見直す・改善を行うことで、カスハラに発展するリスクへの低減が期待できます。
対応時には、顧客側に非がある場合であっても、顧客の話を最後まで傾聴した上で事実確認を行い、適正な対応を行いましょう。その際、顧客等に共感するといった相手の立場に寄り添う姿勢や企業の過失に関する言動を避けるなどの注意が必要です。
万が一、従業員・企業側に非があった場合は、対象となる事実・事象を明確して限定的に謝罪しましょう。
カスハラや悪質なクレーム発生時の具体的な対応方法を習得することで、現場で適切な対応ができ、恐怖心の軽減にもつながります。そのため、全従業員への研修・教育プログラムの実施は非常に重要です。また、監督責任のある従業員の研修では、部下のサポート方法についても教育する必要があります。
サービスや商品に不備があることから発生するクレームとは異なり、理不尽なハラスメントを受けるカスハラは精神的なダメージを受けやすいことから、従業員が抱える精神的・身体的なストレスは大きいです。カスハラの被害に遭った従業員は、業務パフォーマンス・モチベーション・エンゲージメントが低下するだけではなく、「うつ病・PTSD」といった精神疾患を引き起こすリスクや休業・退職に追い込まれるケースもあります。
そのため、企業はカスハラの被害を受けた従業員へのメンタルヘルスケアのサポート体制を整える必要があります。また、社内にカスハラ・その他ハラスメント被害について気軽に相談できる相談窓口を設置することも重要です。
電話によるカスハラでは、「言った・言わない」問答といった顧客と従業員のやり取りが不可視化なことから生じるトラブル事例が増えています。そのため、正当なクレームとは異なること・適切に対応したことを証明するために、通話録音機能を導入することをおすすめします。また、従業員が安心して業務に集中できる環境作りやマニュアルの見直し・予防策を講じる際にも役立ちます。
さらに、「この通話は録音されます」などの通話前の録音告知メッセージや自動通話登録を設定する方法も電話によるカスハラ被害の抑制に有効的です。
以上、深刻化するカスハラ被害の実態や事例、企業が求められる対策について徹底解説しました。
― カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
― カスハラの定義
― カスハラとクレームの違い
― 電話によるカスハラの被害状況・事例
― カスハラ対策の義務化・企業が求められる対策
企業は増え続ける理不尽なハラスメントから大切な従業員を守るためにカスハラ対策を講じ、企業文化の一部として定着させていくことが重要です。但し、カスハラは対応方法を誤ると、さらなる怒りを買ってしまう・トラブルに発展する危険性があるため、カスハラの定義をしっかり理解し、対策を講じる必要があります。
ソニックスでは、電話によるカスハラ対策として通話録音のサービスを取り扱っております。サービス業・教育・医療・福祉業などさまざまな業種における導入実績もありますので、気になる点などありましたらお気軽にソニックスにお問い合わせください。
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